WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
 
 
030「南のプーリア ワインの旅で出会った食」

イタリア半島のちょうど「ヒール」部分にあたるサレント半島は、ワイン産地でいうプーリア南部にあたる。アドリア海とイオニア海に挟まれた「半島のなかの半島」は、北部と異なり、独立した島のような環境だ。

半島内で最も知られている生産地域はイオニアン・コースト寄りのマンドゥリア。認定原産地名「プリミティーヴォ・ディ・ マンドゥリア」が示すように、プリミティーヴォ種から造られる赤ワインで知られているが、現地で造られているワインは思いのほか多彩だ。白の固有品種フィアーノは、プリミティーヴォとは対照的な清涼感あふれるワイン。ネロ・ディ・トロイア、プリミティーヴォと並んでプーリアの赤を代表するネグロアマーロ種からは赤とロゼが造られている。

レポラーノとトッリチェッラの中間、地中海にほど近いリッツァーノのテヌーテ・ディ・エメラは、生物学リサーチャー、企業家として世界各地で活躍したクラウディオ・クアルタさんが故郷で興したワイナリーのひとつ。エメラはギリシャ神話の昼の女神ヘーメラーのことだ。

土壌とミクロクリマを周到にリサーチし、2005年に50ヘクタール分の植樹を開始。プリミティーヴォ、ネグロアマーロ、フィアーノなどの固有品種、フランス品種のほか、ミラノ大学との提携で欧州・地中海地域のマイナーな品種を約500種、研究用に栽培している。気候変動に対応可能な、将来性が見込めるぶどう品種を探るのが目的だ。世界にもまれなワイン用ぶどうのデータバンクは、プーリアの安定した気候だからこそ可能なプロジェクトだという。

クアルタさんのワイナリーでいただいたランチも、ジートさんのレストランの食事と同じく、料理の原点を感じさせてくれる印象深いものだった。彼の友人のチーズ職人、アンジェロさんが、沢山のチーズを抱えて駆けつけ、クアルタさんも籠を手に、庭先でハーブを摘みはじめる。しばらくすると女性のスタッフによる手料理が並び、クワルタさん特製のタコとハーブたっぷりのパッケロ(カンパーニャの大きなマカロニのようなパスタ)が運ばれて来た。

トマトやチーズの入ったペットレ(揚げパン)は懐かしい味。モッツァレラ・ノディーニ(結んだモッツァレラ)はコシがあって味わい深い。無花果の葉っぱに包んで作るパンパネッラは、イタリアで最も古くからあるタイプのチーズと言われ、夏場、無花果の葉が大きくなる時期にだけ作られるもの。アンジェロさんは牛、羊、山羊のミルクを混ぜて作るという。できたてを食べるというフレッシュなチーズはとても繊細な味わい。無花果の葉には凝固を促す酵素があり、緑の草原のような香りももたらしてくれる。

モッツァレラチーズなどのフレッシュなチーズを食べる時には、コッリオの白「トカイ・フリウラーノ」やカンパーニャの白「グレゴ・ディ・トゥーフォ」を勧められるが、プーリアのフィアーノやマンゾーニ・ビアンコ、ボンビーノ・ビアンコもいい。

6月のプーリアでは、3度の食事ごとに旬の無花果がふるまわれた。若草色の無花果は、日本やトルコ、ドイツの無花果とは異なるみずみずしさ。デリケートで清々しい味わいは、忘れ難い思いでとなった。



 
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