WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
 
 
026「ブラジルワイン紀行 その14 限りなく赤道に近いビオ」

バスは、赤茶色の荒れ地に拓かれた1本道を突進してゆく。山羊が群れをなして通り過ぎ、荒れ地のところどころには、水たまりのような浅い池がある。無限に広がる低い灌木の林は、この池の周囲だけ、うすい緑色を帯びている。水があるところだけ、木々が緑に染まっているのだ。

ビアンケッティ醸造所は、ヴィニブラジル社からさらに西へ60キロほど行ったラゴア・グランジ(ペルナンブコ州)にある。出迎えてくださったのは、イザネッチ・ビアンケッティ=テデスコ(Izanete Bianchetti-Tedesco)さん、イネルド・テデスコ(Ineldo Tedesco)さん夫妻だ。

ともにイタリア系移民の血をひく醸造家で、オウロ・ヴェルジ農園を拓いた日本人、山本守さんに続き、サンフランシスコ川流域の土地を開拓し、ぶどう栽培を始めた先駆者でもある。イネルドさんがワイン造りを始めたのは1985年のこと。(当時のミラノ農園、現在はボッティチェリ醸造所)。当時少量ながら生産していた「ミラノ農園」ブランドのワインは、北東部でのみ販売していた。

本格的にワイン造りを開始したのは、イザネッチさんが加わった1991年から。新しくラゴア・グランジに畑を拓いた。この畑はサンフランシスコ川から800メートルのところにあり、川の水を直接汲み上げ、灌漑に利用している。赤土の原野は灌漑によって緑のオアシスとなっている。

ビアンケッティ醸造所のファーストヴィンテージは1998年で、ワインはカベルネ・ソーヴィニヨン1種類だけだった。その後、栽培品種を増やし、ソーヴィニヨン・ブラン、モスカート、プティ・シラー(デュリフ)などが加わり、所有畑は17ヘクタールとなった。熱帯の太陽を浴びたぶどうの純粋さ、ペルナンブコらしさを活かそうと、当初からステンレススティールタンクを導入し、醗酵温度を管理している。また、夫妻は2004年からビオ栽培に移行し、2008年にオーガニックワイン生産者の認定証(IBD)を取得、ブラジル北東部のビオワインのパイオニアでもある。化学的物質を使用しない、ということが、ぶとうにも、人にも、きっと良いことだと思ったので、ビオを目指したのだという。しかし、4年の歳月をかけてビオに移行するまでのプロセスは、何もかもが新しい体験で、大変な忍耐が必要だったという。

他の農家からぶどうを買い取り、別ブランドでテーブルワインも生産しているが、それも 醸造所の運営を軌道にのせ、ビオワインにより力を注ぐため。現在(2009年時点)リリース中のビオワインは、カベルネソーヴィニヨン、ルビー・カベルネ、テンプラニーリョ、バルベラ、ソーヴィニヨンブラン、プティ・シラーの6種類だ。

2007年ヴィンテージから、カベルネソーヴィニヨン、ルビー・カベルネ、テンプラニーリョ、バルベラの4種類を試飲させていただいたが、その中では、バルベラが味わい深く、傑出していた。イタリア、ピエモンテ州で広く栽培されているこの品種は、ビアンケッティ醸造所の熱帯気候にもよく馴染んでいるようだ。ワインはフローラルな香りとフルーティさにあふれ、太陽の恵みが炸裂していた。

(ビアンケッティ醸造所は、映画「モンドヴィーノ」(2004)の後半に登場しています。)


 
ARCHIV

過去のワインエッセイはトップページのアーカイヴからお探しください。