WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
 
 
019「ブラジルワイン紀行7 コルデリエ醸造所(Vinícola Cordelier)」

ベント・ゴンサウヴェスの南西に、ヴァレ・ドス・ヴィニェドス(ワインの谷)と呼ばれるワイン地方が広がっている。セハ・ガウシャ地方の中でも、とびきり優れたワインが造られる地域として知られている。ヴァレ・ドス・ヴィニェドス地域の醸造所は、1995年ごろから共同体を形成し、この地域の優れたぶどうだけを使った高品質のワインを生産するようになった。現在ではDO.Vale dos Vinhedosは指定生産地(原産地呼称)としてEUに認可されている。

ヴァレ・ドス・ヴィニェドスに入ると、ます最初に見えてくるのがコルデリエ醸造所である。私が初めて訪れたブラジルの醸造所だ。テラコッタ色の社屋が緑濃い山の中腹にひときわ栄えている。その風景は、まるでイタリアのトスカーナ地方を思わせる。イタリア移民の遺伝子は、この地に、もうひとつのイタリアを誕生させようとしているかのように思える。

オーナーのリディオ・ツィエロさんは、1971年、ブラジルで最初に高品質のボトルワインを生産しはじめたグランジャ・ユニアオン社(創業1931年)を買収。1年後の1972年にコルデリエ醸造所の母体を確立し、1987年に本格的なスタートを切った。コルデリエとは、アッシジの聖フランシスコが創設した、フランシスコ修道会の僧がベルト代わりに使っている縄(コルデリエ)のことだそうだ。醸造所では、大衆ワインであるグランジャ・ユニアオン・ブランド(70%)と、高級ワインであるコルデリエ・ブランド(30%)の双方を生産している。

ツィエロ家はもともと、イタリア、パドヴァの出身。リディオさんのおじいさん、エウジェニオ・ツィエロさんが1886年にブラジルへやってきた。エウジェニオさんは、イタリアからぶどうの種を持って来て育てていたという。それは、どんな品種だったのだろう?

醸造責任者のダリオ・クレスピさんの解説で、コルデリエ・ブランドのワインを試飲。コルデリエ醸造所が生産している品種は、赤ではカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロー、タナ、白ではシャルドネ、モスカテルが中心となっている。しかし、他にも、リースリング・イタリコ(ヴェルシリースリング)、マルヴァジア、トレッビアーノ、ゲヴュルツトラミーナ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブランなどが植えられている。白の品種のほうがバラエティに富んでいる。自社畑は35ヘクタールだ。

ダリオさんが最初に注いでくれたのは、2002年のシャルドネ・レゼルヴァ。きりっとした辛口の軽快なワインで、爽やかな花の香りがする。続いて、同じくシャルドネのエスプマンチ(スパークリングワイン)のブリュットをいただいた。シャンパーニュ製法でつくられている。ヨーロッパのシャルドネはフルーティさも、香りもどちらかというと控えめだが、このコルデリエのシャルドネは、辛口ながら、どちらもとてもフルーティだ。ブラジルの土とブラジルの太陽のせいだろうか。そして赤。2000年のメルロー・レゼルヴァは、とてもまるい味のワイン。柔らかなビロードのような舌触りが心地よかった。2000年のカベルネ・ソーヴィニヨン・レゼルヴァは濃厚で、すみれやグリーンパプリカの香り。コルデリエ醸造所では、レゼルヴァと表示したワインには、ヴァレ・ドス・ヴィニェドス地域のぶどうしか使用していない。

ダリオさんの話によると、グランジャ・ユニアオン社は当初、フランスやイタリアのぶどう品種を接ぎ木せずに植えていたそうだが、1940年代にフィロキセラに襲われ、これらヨーロッパ品種は壊滅状態になったという。その頃、ドイツ人の移民が、アメリカ品種であるイザベルがフィロキセラに抵抗力があることをつきとめた。そしてイザベル種がさかんに栽培されるようになったのだという。やがてヨーロッパ経由で接ぎ木法が伝えられると、アメリカ品種にヨーロッパ品種を接ぎ木して植えるようになったそうだ。

ダリオさんは、醸造家歴25年。10年前から、コルデリエ醸造所でワイン造りに取り組んでいる。醸造学はベント・ゴンサウヴェスの大学で学び、同大学で教鞭をとっていたこともある。ブラジルでも赤ワイン人気は止まらず、白ワインの消費は減少傾向にあるそうだが、ダリオさんは、ヴァレ・ドス・ヴィニェドス地域の土壌には、白がふさわしい、と主張する。しかも、エスプマンチの生産に非常に向いているというのだ。土壌を形成している主な岩石はバサルト(玄武岩)だという。現在、エスプマンチ用には、シャルドネとピノ・ノワール、リースリング・イタリコ、モスカテルが栽培されている。また2年前からはプロセッコも栽培しはじめたそうだ。

「ブラジルのエスプマンチをフランスのシャンパーニュと比較しちゃいけない」ダリオさんが言う。「この地方で収穫できるぶどうは、フランスで収穫できるぶどうよりもアロマが豊か。それはトロピカルな気候のせいなんだ。フランスからブラジルに進出したモエ・シャンドン社がそう言っているくらいなんだよ」

ダリオさんはエスプマンチのほとんどをシャルマ製法で、ごく少量をシャンパーニュ製法で生産している。ヴィンテージもののエスプマンチは生産せず、あくまで、毎年コンスタントな品質の製品を作ることに専念している。ダリオさんは、近い将来、ピノ・ノワール100%のエスプマンチをシャンパーニュ製法で造りたいと言っていた。

コルデリエ醸造所の収穫量は1ヘクタールあたり、100ヘクトリットル。同面積の畑から、ドイツの優れた醸造所のほぼ倍量のぶどうを収穫していることになる。この収穫量が適度であるのか、多すぎるのか、私には判断することができない。ダリオさんの話では、将来的にはもう少し減らすつもりだが、ブラジルは土壌が肥えているので、これくらい収穫量が多くても良いぶどうが得られるとのことだった。コルデリエ醸造所ではほとんどがヨーロッパと同じ垣根式栽培法だが、一部棚式の畑も残っている。ただ、この、ブラジル特有の棚式栽培法は、どうしても収穫量が多くなってしまうのだそうだ。

テイスティングの後、リディオさんに、完成したばかりの新しい醸造所を案内していただいた。訪れた日は、ちょうど2004年の収穫の真っ最中、すでにダリオさんは忙しく立ち回っている。白ワイン品種は18ブリックス、赤は20ブリックスを目安に収穫をしているそうだ。2004年の赤は、今のところ、いずれも21ブリックスに達しているとのことで、ダリオさんは満足そうだった。
 
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